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戦時下日記

ウクライナ戦争が本当に終わるときー戦時下日記(8)

はじめにーイギリスの謎の影響力

ウクライナ戦争が終わりそうでなかなか終わらない。もう戦局は定まっており(ロシアの勝利)、ウクライナ政府の事実上のトップ(イエルマーク)は解任された。だいぶ前からトランプ大統領が終わらせたがっているのは明らかなのに何が妨げになっているのかな、と思っていたら、ちょうどよい記事に行き当たったので、紹介がてら日記を書きます。

まずはロシアの新聞kommersantのサイトに掲載されたインタビュー記事をお読みいただきたい。これによると、鍵を握っているのはイギリスだ。

世界情勢に対するイギリスの影響力はかねてから謎だった。私は、第二次世界大戦で弱体化した後もイギリスが妙な影響力を保持していること、今般のウクライナ戦争やガザ危機にもヨーロッパの他のどの国よりも深く関与しているのがイギリスであることを感じていたが、どういう仕組みなのかはピンときておらず「ああ、そうなのか」という思いで読んだ。

ChatGTPによる翻訳でどうぞ(DeepLと比較しChatGTPの翻訳の方が優れていることを確認しました)。

金曜日(11月7日?)、英紙 The Guardian は情報筋の話として、英国軍がウクライナでの作戦に備えていると報じた。イギリスのキア・スターマー首相が「ウクライナが勝利するまで我々は退かない」と語るとき、彼が口にしているのはスローガンではない。英国外交の公式そのものである。ロンドンにとって戦争は、戦略的生存のための道具であり、経済の衰退を覆い隠し、未来の世界秩序の中に自らの地位を確保するための手段である。

EU離脱後、ロンドンは自らの地位を回復する方法を探さざるを得なくなった。状況は容易ではない。EU市場は大部分が失われ、信用とロンドンのシティに依存する経済は停滞した。2023年のGDP成長率は0.3%、インフレ率は8%を超え、年間90万人以上の移民が流入。医療制度は過負荷となり、政権への信頼は低下している。国内には疲弊感が漂う一方、対外的には決意が示されている。

英国の権力構造は国家というより、情報機関、官僚機構、軍、王室、銀行、大学といった諸制度が横につながって組み上げられた「戦略的生存のための機械」である。このネットワークは危機によって崩壊することはなく、危機を糧にし、それを利用し、崩壊さえも影響力の道具へと変えてしまう。帝国の後にはシティが、植民地の後にはオフショアと忠実なエージェントのネットワークが、「ブレグジット」の後にはロシアに対する東欧・北欧の軍事ベルトが残った。英国は災厄に順応し、それを力の源へと転換する術を心得ている。

2022年以降、同国は戦時体制で生きている。2025年の「戦略的防衛見直し」では、「高強度戦争」への備えと、軍事費をGDPの2.5%――年間約660億ポンド――まで引き上げる方針が示されている。防衛産業戦略は第二次世界大戦以来初めて、軍産複合体を「成長の原動力」と位置づけ、軍事費は110億ポンド増加し、受注は4分の1増えた。

30年にわたる脱工業化は、同国を再分配依存型の国家にしてしまった。そして今、英国が唯一安定して生産しているもの――それは紛争である。

金融セクターはもはや政府の需要を支える能力を失い、その役割を軍産複合体が引き継いだ。BAEシステムズやタレスUKの工場は数百億ポンド規模の受注を受け、ロンドンの銀行はUK Export Financeを通じてこれらの契約を保証している。これは「大砲とポンド」の共生関係――利益が戦争によって計測される経済である。

キエフとの安全保障協定および「100年パートナーシップ」は、ウクライナ経済における英国の存在を固定化するものだ。これらの協定は、企業に民営化資産や重要インフラへのアクセスを与える。ウクライナは、英国の軍産複合体とシティの金融家たちの連合体による“植民地”へと変貌しつつある。

英国は最初にウクライナへストーム・シャドウ(長距離巡航ミサイル)を供与してロシア領への攻撃を許可し、無人機および海上安全保障の連合を創設した。まさにロンドンが「有志連合」の結成を主導したのだ。また英国は、NATOの7つの調整グループのうち、訓練、海上防衛、ドローンの3つを率いている。Operation Interflex の枠組みでは、すでに6万人以上のウクライナ兵が訓練を受けた。

正式には戦闘に参加していないものの、英国はロシアへの作戦を調整している――サボタージュからサイバー攻撃に至るまで。2025年にはSASおよびSISのE分隊が「クモの巣」作戦の調整、鉄道破壊工作、そして「トルコ・ストリーム」への妨害工作に関与した。黒海では、英情報機関がSBSを通じてウクライナ・コマンドーによるテンドロフ砂州への襲撃を支援した。同じ勢力は「ノルドストリーム」破壊作戦への関与も指摘されている。

デジタル空間では、77旅団、SGMI、GCHQが情報作戦および認知戦を展開――情報心理攻撃の調整、ナラティブの形成、偽情報の拡散を行い、国内情勢を揺さぶり、わが国の精神的主権を侵食しようとしている。

同時にロンドンは、ブリュッセルから独立したノルウェーからバルト三国に至る「北の帯」とも呼べる新たな欧州地図を描いている。例えば2024年だけで、バルト海の海底ケーブル防護のために3億5千万ポンドを投じ、ノルウェーとのエネルギールート監視の共同プログラムを開始した。現在はドローンとミサイルの共同生産も調整している。

Joint Expeditionary Force や DIANA プログラムを通じて、英国は「軍事的ヨーロッパ」を形成している。そこでリズムを刻むのはEUではなく、英国自身である。これは古い方法――すなわち、欧州大陸の内部に入らず、分断することで支配する方式への回帰である。ウクライナで平和が訪れれば、この構造は崩れてしまう。

英国は、ワシントンが中国へ関心を移すことを妨げている。なぜなら、英国は「我々」(ロシア)と二人きりになることを恐れているからだ。

もし米国がロシアと合意すれば、ロンドンは大西洋をつなぐ“要石”としての意味を失う。そのため英国の戦略は、紛争の長期化と、欧州安全保障に関するあらゆる持続的合意の妨害に向けられている。英国はNATO、広報戦、諜報活動を通じて、米国を戦争の軌道上に留め、紛争を唯一の安定形態へと仕立てている。

米国はロンドンにとって、パートナーではなく“資源”である。

例えば、ドナルド・トランプの穏健な発言はアルビオン(英国)を満足させるものではなかった。2025年9月のトランプ訪英後、彼が「領土的妥協」をほのめかすと、反応は即座だった。ダウニング街は218億ポンドの新たな支援パッケージ――Storm Shadow の供与や防空プログラム拡大を含む――を発表し、同盟国と緊急協議を行い、「たとえワシントンが揺らいでも、ロンドンは対立の温度を下げず、“いとこ(米国)”を既定の路線から逸脱させない」というシグナルを送った。

その後、トランプの立場は変化した。「アンカレッジの平和」という言葉は消え、「トマホーク」や「モスクワへの強硬な対応」について語り始め、さらに後には、米国での核実験再開に関する無謀な言説まで現れた。

外交から武力誇示への転換は、英国がどれほど巧みに紛争の“空気”を操り、同盟国を望む方向へ導き、米国を戦争軌道に留めているかを示している。

英国エリートにとって、戦争とは破局ではなく、秩序であり、長期的権力維持の保証なのだ。

その戦略文化の歴史――クリミア戦争からフォークランド紛争に至るまで――が示しているのは、外向きの軍事化がエリート構造の内部崩壊を防ぐということである。現代の英国も同じ本能を再生産している。これまでになく弱体化しているにもかかわらず、脆弱性を生存戦略へと転換する術を持つため、強く見えるのだ。紛争は英国にとって呼吸のようなものになっている。ロンドンは物流・金融・情報などの要所を押さえ、策略、契約、威嚇を糧として生きている。そして、この戦争が終わるのは、紛争を生存様式へと変えてしまう「英国の影響力マシン」が打ち砕かれた時だけだろう。

(オレグ・ヤノフスキー / MGIMO政治理論学科講師、対外・防衛政策評議会メンバー

ウクライナ戦争が本当に終わるときーついに「戦後」がやってくる

ヤノフスキー氏がイギリスの権力構造を「国家というより、情報機関、官僚機構、軍、王室、銀行、大学」といった機構のネットワークであるというする点は、私が歴史を学んで得たイギリス像とピッタリ合致する。イギリスが戦争によって生き延びているという点も同様だ。私はこの記事に書かれていることは信頼できると思う。

そういうわけで、トランプ大統領が本当にウクライナ戦争を終わらせることができるのか、私は興味深く見守っている。

かりにウクライナ戦争が終わった(イギリスがトランプ政権への影響力の行使に失敗した)として、イギリスやイギリスと利害を共有する勢力がすべてを諦めるとは思えないので、当面は物騒な状況が続くだろう。しかし、おそらく、やはり金融破綻(ドル覇権の崩壊)が直接の原因となって、イギリスは本当の没落のときを迎えるのではないだろうか。

数百年を戦争で生き延びてきたイギリスの影響力が失われたとき、世界が平和になるのかどうか。当面のことでいえば、それはとりあえず「アメリカ次第」といえる。

ウクライナ戦争が本当に終わった場合に何が起きるかを考えてみると、トランプ大統領はこれを「バイデンの戦争」と呼んで自らの戦争責任は否定し、ロシアと良好な関係を結んでチヤホヤされるだろう。

そうなっても、ドル覇権の崩壊が避けられるわけではないが、ちょっとマシな近未来(いわゆるソフト・ランディング)は考えられるようになる。

それは、アメリカが、自らの財政が破綻しているという事実を認めた上で、ロシアや中国と取引をして(=助けてもらって)、つぎの世界秩序に関与していくという道だ。

アメリカは唯一の大国の地位を捨てるかわりに、大国グループの一角としてそれなりに名誉ある地位を保持する。ロシアや中国としてもアメリカと戦争したりいろいろちょっかいを出されるよりはずっとマシなので、客観的に見れば誰にとっても悪くない取引だ。

アメリカという国の国柄を考えると長期的にはこの路線は難しい(でも長期的にはアメリカがもっと没落していくことで何とか辻褄があうだろう)。しかし、トランプ大統領といま周囲にいる人々は割と現実的な人たちのように見えるので、とりあえず一歩を踏み出すことはできるかもしれない。

そうやって生まれる世界がどういう世界かというと‥‥ まず、イギリスとヨーロッパは影響力を失う(ウクライナ戦争への悪質な関与が致命傷となると思う)。アメリカはどうにか生き延びてロシアや中国やインドなどとともに多極的リーダーシップの一角を担う。

とすると、これは第二次世界大戦終了時に表向き描かれた「戦後」の世界秩序にかなり近いものではないだろうか。

なるほどねえ・・

国連(安保理)・IMF・NATOの3点セットを基盤とする戦後の世界秩序(の大枠)を設計したのは、アメリカとの関係を利用して覇権にしがみつきたいイギリスだった。

それは端的に「戦争の時代」の継続にほかならなかったのだが、イギリスが没落することで魔法が解けて、世界にようやく「戦後」がやってくるのだ。

だからこそ、ウクライナ戦争はなかなか終わらないのだけど・・でも、そのときは遠からずやってくる(たぶん)。しかと見届けましょう。

(おまけ)そのとき日本はーロシアからいろいろ教えてもらおう

そのとき、日本はどうしたらよいかについて意見を述べよう。

再編された世界秩序の下でも、日本はある程度アメリカの傘の下にある状況が続く可能性がある。しかし、その傘が極めて小さく弱いものになることは間違いない(本当はもうそうなってる)。

日本は辺境の小国だ。そんなショボい傘の下で威張ったってどうしようもない。日本はもう一回、幕末に戻って新たに国際社会に仲間入りする気分で、国際政治や外交を学び直す必要があると思う。生きていくのに不可欠なものはなるべく自分たちで生産し、作れないものは礼儀正しく正当なやり方で譲ってもらう。そういうまっとうな経済を作り直していくことも必要だ。

今だったら、ロシアに大量に留学生を送り込むのがいいんじゃないでしょうか(私も行きたい!)。

私がそう考えるのは、ロシアの国際的地位が上がるからというだけではない。ロシアほど、ヨーロッパやアメリカを信じては騙され、それでも正気を失わず、国際社会の中で自立して立派にやっていく術を学んで(かつ実現して)きた国はないからだ。

中国からも学ぶことは多いと思う。ただ、中国は、まだヨーロッパに対する幻想を捨てきれていないように見える。だから一押しはロシアだ。

以下は今年4月のラブロフ外相の発言

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私たちは再び、我が国に対するヨーロッパの新たな敵愾心の波を目撃しています。注目すべきは、大祖国戦争、すなわち第二次世界大戦の終了より前、すべての世界的悲劇はヨーロッパの攻撃的行動から始まったということです。ナポレオン戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦も同様です。

地球上のほとんどの紛争をアメリカが主導するようになったのは、第二次世界大戦でヨーロッパが弱体化し、アメリカがいわゆる自由世界のリーダーとなった後のことにすぎません。それ以前には、すべての悲劇の起源はヨーロッパにあったのです。

いかがでしょうか。
私は全面的に賛成です。

私は、ソ連崩壊後の苦境を乗り越え、ヨーロッパのイジメや訳のわからないちょっかいにも負けずに着実に国家を発展させてきたロシアを心から尊敬している。この年末は、ウクライナ戦争でのロシアの勝利を祝い、ロシアと日本の間に、近代化以降の困難な歴史を分かち合い、より公正で持続可能な秩序に向けて協力していけるような、本物の友情が芽生えることを祈りたい。