アメリカ・イスラエルがイランへの攻撃を開始(2月28日)して1週間になりました。湾岸諸国の立ち位置が東アジアで何かが引き起こされた場合の日本を思わせ、「なるほど、こういうことになるのか・・」と事態の推移を興味深く見ています。
*どこからどうみても戦争なのでこの記事では「イラン戦争」と呼びます。
この戦争について「もうちょっと真っ当な解説を聞きたいよな・・」と思うと、どうしてもロシアを頼りにすることになります。アメリカに配慮せずに発言できる立場にあるのはロシアだけですし、ロシアの人はイランの内部の事情にも詳しいですからね。
手頃なところで、ラブロフ外相のコメントと、元駐イラン大使である専門家のインタビュー(Kommersant紙)をご紹介させていただきます。どちらも短いですが要領を得たものだと思います。
ChatGPTによる翻訳を基礎に多少手を入れました。
目次
1 ラブロフ外相「アメリカの目的はイランとアラブ諸国の関係正常化を阻むことである」
○発言のポイント
- かつてグローバリゼーションと呼ばれ、人類全体に繁栄をもたらすプロセスとみなされていたものは破壊された
- 米・イスラエルの軍事行動の目的はイランとアラブ諸国の関係正常化を阻むことにあった
- 「分断して支配する」という彼らの作戦を機能させないためにあらゆる努力をする必要がある
この危機は、世界全体に深刻な結果をもたらす可能性があります。世界の安定や経済を揺るがし、かつてグローバリゼーションと呼ばれ、人類全体に繁栄をもたらすプロセスと見なされていたものを根底から覆す恐れがあります。そうしたものは、すでに破壊されてしまったと言えるでしょう。
イランでは民間人が苦しんでおり、またイランの報復行動の結果として周辺のアラブ諸国でも民間人が被害を受けています。私たちはすべての民間人の犠牲者に哀悼の意を表します。また、ペルシャ湾のすべての国々で民間のインフラが被害を受けているのを見て取れます。
米国とイスラエルがこの軍事行動を開始するずっと前から、湾岸協力会議(GCC)諸国は、イランに対して軍事力を行使することを控え、すべての問題を外交と政治対話によって解決するよう公然と呼びかけていました。私たちはよく覚えています。彼らは、イラン・イスラム共和国に対する戦争のために自国の領土や領空を使用させないと明言していました。外国の軍事基地が自国領内からこの攻撃に参加することを許さないという公式声明も出していました。それにもかかわらず、彼らはこの戦争に巻き込まれてしまいました。
私は、このことこそが「獅子の雄叫び」とか「壮絶な怒り」とかと呼ばれているこの作戦の目的の一つであったと確信しています。目的については現在さまざまな議論が行われており、米国内を含め、多くの政治家がこの作戦の目的を理解しようと苦慮しています。
ドナルド・トランプ大統領は、アヤトラ・アリー・ハメネイを自分が排除したと公に述べました。さもなければハメネイが自分を排除していただろうという理由です。しかしその数時間後、ピート・ヘグセス国防長官は、米国にハメネイ殺害を実行する意思はなかったと述べました。われわれは、米国がこの戦争において何を達成すべきかを決定する権限のある米国議会などの政治部門の決定を待つしかありません。
私は、この作戦の目的の一つが、ペルシャ湾岸諸国、すなわちイランとその隣国であるアラブ諸国の間に、分断を生み出すことであったと確信しています。最近まで、これらの国々の関係正常化に向けた前向きな動きが進んでいました。サウジアラビアとイラン・イスラム共和国は関係正常化を実現し、世界の注目を集めました。この結果の実現にはロシアも積極的に関与していました。
*サウジとイランの関係正常化等の動きについてはこちらの記事をご覧ください(↓)。
実際、私たちは長年、地域の統合というアジェンダを推進してきました。20年以上にわたって、ペルシャ湾地域の集団安全保障構想の発展を支持するための取り組みを行ってきたのです。この構想は、湾岸に面するすべての国とその主要な近隣国を含み、当初の構想では国連安全保障理事会の5常任理事国も関与するものでした。それによって透明性を確保し、信頼醸成措置を促進し、この地域の豊かな資源をその住民の繁栄のために活用する具体的な措置を取ることを目指していました。
しかし残念ながら、この構想は実現しませんでした。西側諸国は、湾岸地域でのいかなる前向きな議題も阻止するべくあらゆる手段を講じてきました。今回のイランへの攻撃が示しているように、彼らは単純な「(敵か味方かの)二者択一(either or)」という原則で行動しています。つまり、「我々と共にあるか、さもなくば敵か」。そしてその根底にあるのは、いつものように「分断して支配する」という論理です。この場合はむしろ「分断し、互いに争わせ、そして支配する」と言うべきかもしれません。
私は深い遺憾の念をもってこれを述べています。なぜなら、ここで話しているのは私たちの親しい友人たちだからです。米国とイスラエルの攻撃によって苦しんでいるすべての国々は、私たちの戦略的パートナーです。私たちは彼らとの対話を維持しており、国連安全保障理事会や国連総会を含む国際社会の平和を愛する国々とともに、このような作戦が完全に不可能になるような環境を作るために、できる限りのことを行うつもりです。
こうした道義的・政治的圧力がどれほどの効果を持つかは断言できません。しかし、国際社会の圧倒的多数の声が確実に届くよう、私たちはあらゆる努力をしなければなりません。
(https://mid.ru/en/foreign_policy/news/2084269/)
2 専門家インタビュー「政権転覆の試みが成功する可能性はない」(Kommersant)
イラン政権転覆をめぐる米国・イスラエルの計画について語る、ロシア元駐テヘラン大使アレクサンドル・マリャソフ
○ポイントと気になる発言
- 自国の独立を脅かす者は絶対に許さないというのがイランの国民性であり、体制打倒の試みが成功することはありえない
- よく組織されて高い動機を持った実質的な反体制勢力はイランに存在しない
- 精神的指導者であったハメネイの死によってイラン人の抵抗意欲は高まっており、イランは報復攻撃を拡大していくだろう(周辺諸国は非難はしてもイランに報復攻撃を仕掛ける可能性は低い)
- 今回の攻撃を経てイランの新体制が核兵器の開発に乗り出す可能性は十分にある
米国とイスラエルは、イランの最高指導者アリー・ハメネイおよび他の高官を殺害し、反政府勢力に政権掌握を呼びかけることで、イランに対する新たな軍事作戦を開始した。しかし、迅速にクーデターを実現することはできず、現在ワシントンとテルアビブでは、この作戦が当初の予定より長期化する可能性も排除していない。今後イランおよび地域でどのように事態が展開し得るのかについて、『コメルサント』紙の記者エレーナ・チェルネンコが、ロシア連邦の元駐テヘラン特命全権大使であり、討論クラブ「ヴァルダイ」の専門家でもあるアレクサンドル・マリャソフに話を聞いた。
―これまでの展開を見て、ワシントンとテルアビブが期待しているイランでの政権交代が実現する可能性はあると思いますか。
米国大統領ドナルド・トランプとイスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフが、イランに対する軍事作戦の主要な目的の一つとして、イラン・イスラム共和国の体制打倒を掲げたのは事実です。彼らは、米国とイスラエルによる「壊滅的な打撃」の後、反政府勢力が政権を掌握するよう呼びかけています。
トランプ氏とネタニヤフ氏が本当にこの目標の実現可能性を信じているのか、それとも単に体制反対派を鼓舞するためのレトリックなのかは判断が難しいところです。しかし、この課題は最初から実現不可能でした。イラン人の性格を理解する必要があります。彼らにとって、自国の独立へのいかなる脅威も、即座に拒絶と非難という反応を引き起こすからです。
さらに重要なのは、イランには実質的で、よく組織され、高い動機を持った反政府勢力が存在しないという点です。いわゆる富裕層の若者、知識人の一部、あるいはビジネス界の一部は、宗教的規制の緩和や聖職者の社会・政治への影響力の縮小を主張していますが、当局と直接対決する用意はありません。
より本格的な反対勢力としては、イランの体制内に存在する自由主義・現実主義的な派閥が挙げられます。彼らは西側諸国との関係正常化、とりわけ貿易・経済関係の改善を主張しています。しかし、ハタミ政権やロウハニ政権の時期に彼らは政権を担い、米国との妥協によって自らの評価を損ないました。制裁解除という譲歩を引き出すこともできず、国内の社会経済状況を改善することもできなかったためです。今回の米国とイスラエルによる攻撃の後では、彼らが再び積極的な政治活動に復帰する可能性は完全に消えたと言えるでしょう。
現在、国家の暫定的な指導体制は、以下の三頭体制に委ねられています。
- マスード・ペゼシュキアン大統領
- 司法長官ゴラム・ホセイン・モフセニ=エジェイ
- 憲法監督評議会メンバーのアヤトラ・アラフィ
その後、おそらく戦闘が終結した後に、イラン・イスラム共和国憲法に定められた手続きに従って、死亡した最高指導者アリー・ハメネイの後継者が任命されることになります。
―攻撃側の連合が拡大した場合、イランはどれほど長く抵抗できるでしょうか。イラン社会は長期戦に耐える準備ができていると思いますか。また、ペルシャ湾諸国などにある米国施設へのイランの攻撃は逆効果ではないでしょうか。
もともと強かったイラン人の抵抗意欲は、ミサイル攻撃によって最高指導者アリー・ハメネイが死亡した後、さらに高まりました。彼は単なる政治指導者ではなく、最高の宗教権威であり、何百万人ものイラン人、そして海外の多くのシーア派にとって精神的指導者でした。彼の死は、イラン人の目には信仰と正義のための殉教として映っています。
米国とイスラエルは、イランで街頭暴動が起きることを期待していました。一方、イランの最高宗教指導者たちは、米国とイスラエルに対するジハード(聖戦)を宣言しました。
私の見方では、イランは米国とイスラエルの目標に対する報復攻撃をむしろ拡大していくでしょう。彼らには退く場所がないからです。イランはペルシャ湾諸国にある米軍基地にもミサイルやドローン攻撃を拡大しています。これは、それらの国の政府に対して、自国領内から米軍基地を撤去するよう求める圧力をかけるためです。
イランの行動は非難されていますが、ペルシャ湾諸国や他のアラブ諸国が軍事的報復に踏み切る可能性は低いでしょう。フランスやイギリスなど、米国の他の同盟国についても同様です。
―最近、イランの友人や元同僚と話しましたか。現地の雰囲気はどうですか。
最近話したイランの同僚たちは、かなり戦闘的な雰囲気でした。
彼らは、イランが米国とイスラエルとの戦争を乗り切ることができると確信しています。
―ロシア外務省は、米国とイスラエルが交渉と同時にイランを攻撃したことを「外交への嘲笑」と呼びました。多国間協定を破壊し、交渉を軍事行動準備の隠れみのにする国と、どのように交渉できるのでしょうか。米国がイラン核合意から離脱したときのように。
イラン人はもはや米国を信頼していません。イランのアッバス・アラグチ外相も最近のインタビューで、「もし交渉がイランに対する軍事行動準備の隠れみのとして使われるなら、交渉する意味は何なのか」と述べています。
―イランがかつて核兵器開発の道を選ばなかったのは間違いだったのでしょうか。あるいは、最近の出来事を受けて、テヘランでは核兵器が必要だと考えるようになるでしょうか。北朝鮮は爆撃されていません。
西側諸国がイラン核計画の平和的性格についてのテヘランの合理的な説明を無視し続け、疑念を取り除くための厳格な監視付き合意に応じないのであれば、イラン・イスラム共和国の新しい指導部の中で、そのような考えが生まれる可能性は十分にあると思います。