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世界を学ぶ 戦時下日記

ユーラシア大陸の中心で起きていること
ー戦時下日記(6)

西アジア中国を震源地として、本当に重要なことが起きていると思うのでまとめておく。

*以前、イランのハメネイ師が「ここは西アジアだ。中東などではない」と言っているのを聞いて「なるほど」と思ったので、西アジアを採用する(「中東」とか「極東」はヨーロッパを基準点とする言い方である)。

1 西アジアー和解に次ぐ和解

【予備知識】西アジアにおけるアメリカ

・アメリカは、冷戦終結後もロシア・中国・イランを敵視し、これらの国と良好な関係を保つ国々(イラク、北朝鮮、シリア、リビア、イエメン、ソマリア)で、政権転覆等を目的とした代理戦争を展開してきた(主な手段は武力攻撃と経済制裁)。

・アメリカの西アジアにおける最重要同盟国はサウジアラビア。サウジは長年イランシリアと対立して西アジア・アラブ世界で両者を孤立させ、アメリカの利益に貢献してきた。

・西アジアでの紛争状態の継続は、アメリカの利益(石油資源確保、武器輸出拡大、影響力保持)に合致した。

・もっとも破壊的な影響を受けたのはシリア

ーアメリカはアサド政権に「専制主義」のレッテルを貼り打倒を目指している(事実は異なる。アサド政権のシリアは世俗国家であり、近隣の王制国家と比べはるかに民主的)。

ーアメリカは2011年の反政府運動(「アラブの春」の一部)を契機に勃発した内戦で反政府側を強力に支援してきた。西アジア諸国ではサウジ、トルコ、カタールが反政府側。

ーアメリカは2015年から正式にシリアに駐留を開始。現在も一部を占領し、経済制裁も続けている。

ーISISとの戦いというのは口実に過ぎず、①中国、ロシアとの経済的関係(シリアはこれらの国に石油を売り武器を買っている。アメリカはこれらの国に石油を売ってほしくなく、また自国の武器を買ってほしい)、②イランとの政治的友好関係(アメリカは2010年に「イランとの関係を解消すればその見返りとして経済制裁を中止する」とシリアに提案して断られている)、③政権転覆(アメリカはアサド政権を倒しアメリカに従順な政権に変えたい)が主な目的と見られている。 

(1)サウジアラビアとイランの和解

・そういうわけで、サウジを中核とするイラン・シリア包囲網の構築がアメリカの西アジア政策の肝であったが、3月以降、この包囲網が一挙に瓦解をはじめ、西アジアに平和が訪れようとしているようなのである。

・3月10日、サウジとイランは外交関係正常化(7年ぶり)で合意した。共同声明は3カ国の連名でもう1国は中国。3カ国は北京で4日間に渡って協議を行ったとのこと。中国政府が仲介役を果たしたのである。

・アメリカは「イランが履行義務を果たすかが問題」とか言っていたようだが、履行に向けた動きは着々と進んでいることが窺える。

・4月6日にはサウジとイランの外務大臣が北京で会談して大使館の再開に向けた合意を締結。サウジの国王はイラン大統領をサウジに公式に招待し、大統領もこれに応じたという。

この記事を大いに参考にしました

(2)サウジーシリア関係にも和平が波及!

・3月末、サウジとシリアが外交関係の正常化に合意したことが伝えられ、4月18日にシリアでサウジ外相とアサド大統領が会談した。

・サウジは5月に開催されるアラブ連盟の首脳会議にアサド大統領を招待する方針とのこと。

アラブ連盟からの排除(ヨーロッパの国がEUから除名されたようなものだろう)というのが、アメリカの意向に基づく「シリアの孤立」の象徴のようなものだったので、これは本当に大きな動きなのだ。

シリアの外務大臣は4月1日はカイロを公式訪問している(4月12日にはサウジ。いずれも12年ぶりとのこと)。サウジ、エジプトというアラブ連盟の二大大国がシリアを歓迎していることが窺える動き。

・この動きの前提には、シリア内戦でアサド政権側がすでに勝利を決定的にしていて、周辺国がアサド政権の正統性を認めているという事実があるらしい。実際、サウジとの関係正常化に先立つ今年2月に、レバノンチュニジアアラブ列国議会同盟に属する各国の議員たちが相次いでシリアを訪問していた。

・そうした事実を前提に、仲介役を果たしたのはロシアであるらしい。

今年3月のモスクワでの会談の様子https://www.france24.com/en/middle-east/20230315-assad-meets-putin-in-moscow-as-syrians-mark-12-years-since-anti-regime-uprising
今年3月のモスクワでのアサド・プーチン会談の様子
https://www.france24.com/en/middle-east/20230315-assad-meets-putin-in-moscow-as-syrians-mark-12-years-since-anti-regime-uprising

・3月20日-21日には非常に印象的な習近平のモスクワ訪問があったが、そのときにこうしたことも話し合われていたに違いない。

・ちなみに中国はイスラエル-パレスチナ和平の仲介にも積極的な意向を示している(さすが共同体家族だ)。

*ところでシリア情勢とくにアサド政権について日本語で出回っている情報は「専門家」とか「現地で取材したジャーナリスト」のものを含めてほとんど嘘ばっかりだと思います。私はまず元外交官の国枝昌樹さんが書いたこの本(↓)を読んで「世間で言われていることは全然間違ってるっぽい」ということを知り、以後は情報を海外の非主流メディアに求めています。

国枝昌樹『シリア アサド政権の40年史』(2012年、平凡社)
この記事ではこのスレッドを大いに参考にしました。

*内戦前のシリアの美しい街並みを紹介したこちらの記事もとてもおすすめです(写真しか見ていません)。

https://www.theatlantic.com/membership/archive/2018/04/remembering-syria-before-the-war/558716/

(3)イエメンも?

イエメン内戦にも波及効果が期待できるという。

・イエメン内戦は、一般に「暫定政府軍」とシーア派の武装組織「フーシ派」の戦いとされている。前者の背後にはサウジがいて、かなり積極的に関与しているという。

・一方、世間では、フーシ派の背後にはイランがいるとされているが、アメリカが主張するほどイランが積極的に関わっているわけではないらしく、まだよくは分からないのだが、実態はサウジ=アメリカが扇動する戦争ということなのかもしれない。

・いずれにしても、サウジとイランの関係が改善するなら、イエメン内戦の終結は十分に期待できるのだ。

・4月14日から16日に行われた捕虜の交換は、両者の間で対話と妥協が成立しつつあることをうかがわせる。

・4月8日にはサウジの代表団停戦協議のためにイエメンを訪問し、次回の協議は4月21日に行われるという。

サウジはイエメン南部の港における輸入品の封鎖措置を解除することを発表、イランはフーシ派への武器送付を停止し、フーシ派にサウジへの攻撃を止めるよう圧力をかけることに合意したと報道されている。

サウジはイランがイエメンから手を引くなら、サウジはイラクとシリアから手を引くと約束したともされており、これが実行されるなら、本当に、シリアにもイエメンにも同時に平和が訪れるということになるだろう。

フーシ派のリーダーと握手するサウジ代表団

(4)アメリカだけが嬉しくない

アメリカは、イランおよびシリアとの和平に向けたサウジアラビアの動きを「不意打ち」と非難しCIA長官ウィリアム・バーンズをサウジに送り込んでいる。

https://www.businessinsider.com/cia-director-visited-saudi-mend-tattered-relations-mbs-report-2022-5

・しかし、サウジはもうずいぶん前から明確に「中立」の姿勢を打ち出し始めている。

・2021年には上海協力機構に対話パートナーとして加盟(今年の3月にサウジ議会も承認)、BRICSへの参加を目指していることも伝えられている。

・ウクライナ紛争では対ロシア制裁への参加を拒否した上、ロシア産原油の輸入量を2倍に増やし、対ロ制裁の効果を高めるためのアメリカからの石油増産要請すら拒絶している(大幅に減産した)。

・「中立」とは、この文脈では、アメリカの一極支配ではなく中国やロシアが推し進める多極化した国際秩序を支持するということなので、サウジは明確にアメリカに反旗を翻しているのだ。

2 ルーラは動く(中国訪問)

もう一つ、重要だと思うのは、ブラジル大統領ルーラの中国訪問である。

ルーラは3月下旬に中国訪問の予定を直前にキャンセルし(「本人の病気」が理由)、「むむ、怪しい‥(アメリカに懐柔されたのか?)」などと思っていたが、4月12日-15日に訪中が実現。

私の疑念を大いに払拭するハイテンションで、多極的世界に向けた意欲を語っていた(そして中国の人々に大喜びされていた)。

中国でのルーラの発言はすごい。

ウクライナ情勢については「アメリカは戦争をけしかけるのを止めて、停戦協議を始めるべきだ」。

*この発言についてアメリカは不快感を示し、ロシアは賞賛している。

*なおブラジルは、今年3月にロシアが国連安全保障理事会にノルド・ストリームの爆破について調査するよう求めた際、ロシア、中国とともに決議案に賛成している。

おまけに、ドルの覇権にはっきり疑問を呈する発言もしているのだ。

私は毎晩考えます。いったいなぜ全ての国が貿易をドルベースで行わなければならないのかと。なぜ私たちは自国の通貨で取引をすることができないのでしょうか。金本位制の後、ドルを基軸通貨にすると誰が決めたのでしょうか?

https://www.france24.com/en/americas/20230414-brazil-s-lula-criticises-us-dollar-and-imf-during-china-visit

中国とブラジルは3月に両国間の貿易を中国元ブラジル・レアルで行うことで既に合意していた(同様の動きは中国、ロシアの周辺のあちこちで出てきている)。ルーラはこれがドルの支配から抜け出すための動きであることを非常に明確に語ったわけである。

今まで中南米では、アメリカに抵抗し、なかでもドルの覇権に抵抗する動きを見せた為政者は、必ずアメリカの手によって倒されてきた(と分析する記事を読んだことがある)。

ルーラ自身も前回の大統領の任期中に汚職の罪をでっち上げられて投獄されているのだ(CIAの関与があったとされている)。

ルーラにせよ、サウジにせよ、彼らの行動をアメリカがどのように受け止めるかは熟知しているはずである。

それにもかかわらず、これほどあからさまに動くということは、彼らが「潮目は変わった」と見ていることを示していると思われる。

彼らは、「現在のこの世界では、もはやアメリカに従順に従う必要はない。いや、むしろ従うべきではない」と考えているのだ。

西アジア中南米、そしてアフリカがはっきりとアメリカ(ないし西側)一極支配体制から離脱する動きを見せている。

アメリカおよび西側は、もはや信頼に値するリーダーとはみなされていない。それだけで、すでに、アメリカ(および西側)の覇権は終わっているといえると思う。

中国側は歓迎式典で(アメリカが支援していた)ブラジルの軍事政権時代の
抵抗運動を象徴する曲を演奏してルーラを驚かせたという

3 おわりに

ウクライナは膠着状態(勝ち目はない)、西アジアにおける影響力を中国、ロシアに奪われ、グローバル・サウスがドル覇権体制から離脱する‥‥となると、アメリカは台湾問題で賭けに出るしかない、という感じがいよいよ強まる。

日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドは、ギリギリまでアメリカに従って動き、最後の最後に引導を渡す、というような役回りであろうか(このツイートの動画が面白かったです。是非↓)。

ちゃんと考えている人がいるといいなあ。