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行政の立ち位置

 

普通に頭がよさそうで、普通にいい人そうな人が、日本の総理大臣になるのはすごく久しぶりだ。それだけで私はとても嬉しい。

それ以上に政治家に多くを期待する習慣はないが、岸田氏にはほかにもずいぶん期待できるところがある。新自由主義的政策の転換もそうだし「政治主導」とか言わないところもいい。行政官に対して敬意を示し、協力を仰いでやっていく姿勢を示しているのは、日本における自民党の立ち位置をよく理解していることの表れだと思う。本当によかった。

書斎の窓の連載で「第4回 日本の近代ーー国家篇」を書いたとき、原稿段階では「行政の立ち位置」という項目を設けていた。字数の関係で削除せざるを得なかったので、この機会に、貼り付けておきます。

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行政の立ち位置

行政が占めているのは「優秀な次男坊」の地位であると私は見ている。家督は継げないので、試験を受けて活躍する道を選んだ人たちである(システムの説明である)。

政治を弱点とする日本で、その代わりを務めてきたのは行政であり、この人たちのがんばりなしに、現在の日本はない。にもかかわらず、長男(この文脈では政治であろう)は優秀な彼らをやっかみ、親族一同(国民一同である)は「次男のくせに」と軽んじる。一言でいえば、私たちは彼らに甘えてきたのである。

新たに政治を目指そうという人たちには、行政の経験に学び、行政と信頼関係を築くことを第一に考えてほしいと思う。エリート行政官たちは、理想としてのリベラル・デモクラシーと日本の現実との間で悩みながらも社会を動かし続けてきたのであり、そこには、日本人にフィットしたやり方で民主的な意思決定を行うための知恵が受け継がれている。理想化するつもりはないが、新しく作られる政治に役立つ知恵と経験を持つ「先輩」は、日本には彼らしかいないのである。末期自民党政権が行政の自律性を軽んじ、居丈高にバカ殿の尻拭いをさせるような真似をしてきた後であればこそ、清新でしたたかな政治勢力が最大限の敬意をもって臨めば、彼らは応じてくれるのではないだろうか。