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イエメンを知ろう(付/イエメンの人口動態)

 

はじめに

現在、ガザ危機を終わらせるための行動をもっとも激しくかつ直接的に展開しているのはイエメンの人々である。

イエメンの人々は、10・7の直後からイスラエルに対するミサイル・ドローン攻撃を開始し、紅海を通行するイスラエル関連船舶を拿捕し、今ではアメリカ・イギリスと戦っている

イエメンは西アジアのアラブ諸国の中では圧倒的に「遅れた」国だ。例えば、トルコの男性識字化(20-24歳の50%)は1932年、シリアは1946年だが、イエメンは1980年。女性に至っては2006年である。 

イスラム諸国の近代化(トッド/クルバージュ『文明の接近』(藤原書店、2008年)31頁より)

しかしその「遅れ」のために、イエメンはいま現在、最も若く活力のある時期を迎えているのである。

*イエメンの年齢中央値は19歳(2024年)。イラクやパレスチナと並んで最も若い一群だ(wikiの表を並べ替えてご覧ください)。 https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_by_median_age

19世紀後半から20世紀初頭の日本人のような血気盛んな若者たちの前に、同じアラブの人々を襲うガザ危機があったら、「そりゃあ、やるよなー」と、私はまず思った。

それで興味を持ったのだが、軽い気持ちで調査を始めてみると、イエメンが現在置かれている状況はかなり非道なものだった。

しかし、さらに奥地に入り、調査を進めてみると、何か輝かしいものも見えてきたのである。

「これ、本物の民主化革命じゃないか‥‥」

そう。イエメンは今、フランス革命も真っ青(?)の本物の革命の只中にあったのだ。

「人道危機」の原因は内戦ではない

現在のイエメンは「世界最悪の人道危機」の当事国としてよく知られている。一般的な説明では、「危機」の原因は「2015年に始まった内戦」とされている。 

NHK「キャッチ!世界のトップニュース」
NHK「キャッチ!世界のトップニュース」

この説明は、根本的な原因はイエメンにある、という印象を与える(ための)説明といえる。イエメンという国はそもそも国家の体をなしていない破綻国家であり、反政府勢力が蔓延り、悪者のイランにつけ入る隙を与えている。だから、それらを撃退し、秩序を回復するために、外国が介入しているのだ、と。

ガザ危機が「イスラエル VS イスラム過激派ハマス」の構図で描かれ、前者の介入にも一定の理がある、とされているのと全く同じである。

しかし、調査してみて分かった。この説明は意図的に流布されている「ウソ」である。

イエメンという国に問題がないというわけではない。北部と南部は当初から分裂していたし、1963-70年には北イエメンの内部でも内戦があった。南北イエメンは1990年に統一されたが、1994年には南北の間で内戦が起き、その後も政治の安定には程遠い状態が続いた。

しかし、2015年からの内戦は、その延長線上に起きたものではない。後で詳しく説明するが、イエメンのもともとの政情不安定と「世界最悪の人道危機」は、基本的には関係がないのである。

人口動態から見るイエメン

私は勝手に、イエメンという国は、この先の激動において大きな役割を担っていく可能性がある、と感じている(根拠はない)。

イエメンの人口動態に関するデータをいくつかご覧いただこう。

男性識字率50%越の時期は1980年、女性は2006年だが、その前の1995年にすでに出生率の低下が始まっている。近代化の過程をくぐり抜けている真っ最中である(上記の図を参照)。

年齢中央値は19歳、人口ピラミッドは下のような感じで、とにかく若い。 

https://www.worldometers.info/demographics/yemen-demographics/#
https://en.wikipedia.org/wiki/Demographics_of_Yemen#/media/File:Yemen_single_age_population_pyramid_2020.png

そして現在の人口は約3500万人。日本の場合、1870年代の人口が3500万人くらいだった。その時期の年齢中央値のデータはないが1940年が22歳なので、1870年代に20歳前後だったとしてもおかしくないだろう。当時の日本と同様、イエメンもまだ出生率は下がり切っていないので、この先国情が安定すれば、人口は大きく増えていくと見込まれる。

乳幼児死亡率はまだまだ高い(2022年で42,245人(/1000人)*)。とくに「世界最悪の人道危機」が始まった2015年頃からは足踏み状態が続いているが、長期の傾向は明らかに低下に向かっている。近代化は着実に進んでいるのだ。

https://data.worldbank.org/indicator/SP.DYN.IMRT.IN?end=2021&locations=1W-YE&start=1963&view=chart

次回の予告(おわりに)

そういうわけで、イエメンは現在、近代化を始めた当初(約150年前)の日本と同じような時期を迎えている。

民主化革命のさ中にあるその国は、(アメリカが支援する)サウジアラビアの攻撃によって大変な目に遭いながら(詳しくは次回以降)、80年前の日本よりもはるかに積極的かつ断固した姿勢で、アメリカと対決しようとしている。

次の地図をご覧いただきたい。西アジアではイランを除くすべての国に米軍基地があり、多数の兵士を駐留させている。しかし、イエメンには一つもないのである。 

どうしてこんなことが可能になったのだろうか?

*ちなみに日本は約54000人、基地は数え方がよく分からないが大きめの単位で数えると約15。人員・基地のそれぞれ約半数は沖縄。
https://www.usfj.mil/About-USFJ/
https://en.wikipedia.org/wiki/United_States_Forces_Japan#/media/File:Military_facilities_of_the_United_States_in_Japan,_2016.gif

興味、ありますよね?

「イエメンを知ろう!」ということで、今回を含めて数回をイエメン特集とさせていただきます。